2021年のF1グランプリにアルファタウリから颯爽とデビューを果たした角田裕毅。日本のファンやホンダだけではなく、レッドブルの首脳陣からも大きな期待を寄せられたが、開幕戦で好発進したものの、それ以降パッとしない。チームメイトのガスリーにコンマ5秒も近づけない状態に陥っている。F2で華々しい活躍を見せたルーキーが、なぜF1でこんなに苦労しているのか? 元F1メカニックの津川哲夫氏に解説していただいた。
文/津川哲夫、写真/Red Bull Content Pool
■開幕戦バーレーンGP、予選Q1で驚異の2位発進。才能を見せつけた
現在のF1はテストが厳しく制限されており、新人であろうともテスト走行は殆どさせてもらえない。この状況だけでもF1の新人デビューは極めて難しいことなのだが、さらに新型コロナウイルスのパンデミックが追い討ちをかけ、角田のデビュータイミングは最悪となってしまった。
ところがデビュー戦となった開幕戦のバーレーンで、角田はいきなりそのポテンシャルを発揮する。13番手のスタートグリッドからのレースで何と9位完走。デビュー戦でいきなり初入賞を果たし、F1初ポイントをゲットしているのだ。近代F1のチャンピオンシップポイントはトップ10まで付与されるが、このトップ10内での完走は実に至難の業なのだ。
角田の初レース初入賞はF1関係者を驚かせ、一気にメディアの注目を集めてしまった。 “東洋から脅威の新人現る!!”と。
この初戦が期待感を大きく増幅させ、わずか1戦を戦っただけで、脅威の新人像が角田裕毅のカタチとして捉えられてしまったのだ。もちろん開幕戦の速さは、角田裕毅のポテンシャルの高さを連想させるものであったことに否定の余地はない。
しかし、こうなると2戦目以後のレースに開幕戦以上の結果を求めてしまうのが世間というものである。これは角田本人にも大きな影響を与えたはずだ。そして期待は簡単に、そしてあっけなく失望に変わっていくのも世の常だ。テスト走行もろくにさせてもらえず、たった1戦を走っただけにもかかわらず、2戦目以降の結果を不出来として大きく目立たせてしまった。
これらのプレッシャーは外野であるファンやメディアからだけでなく、おそらくだが角田自身も自らプレッシャーをかけているに違いない。“初戦をあんなに速く走れたのに、なぜ!? ”と。
結果だけを見れば開幕以来、僚友ガスリーを下した事は事実上なく、常にコンマ数秒から時には1秒近い遅れを背負ってしまっている。
■どこにガスリーに後れを取る理由があるのか?
ほんの僅かしかないデータからだが、彼らの走りを見つめてみると、2人にはアルファタウリAT02を駆る方法が違っていることが解る。
その違いを端的にいうならば、極論だが最も大きな違いはAT02を“繊細に無駄なく操っている”か “強引にねじ伏せようとしている”かというところだろう。
もちろん繊細かつ歯切れの良いコントロールで効率良く走らせているのがガスリーであり、強引にねじ伏せるようとしているのが角田ということになる。
より具体的にいえば ガスリーはスロットルを素早く繊細にすべての領域で使いこなし、強力で短いブレーキングでより素早く効果的な減速をしているが、角田はまだガスリーのように二つのペダルワークを100%できていない。
さらにガスリーはこの二つのペダルワークを効率的に行ってコーナリング、特に回頭時に利用し、ステアリングを必要最小限の動きでターンし、ノーズを素早くかつスムースに進行方向へ向けるコーナリングをする。素早い回頭は後に大きな横Gを生まずにそのまま直線的な加速Gを生み出すのだ。
ガスリーのドライビングは、これに回転数の高めな素早いシフトが加わる。特にダウンシフトは角田よりもエンジン回転数を維持したシフトをしている。これがどれほどエンジンブレーキ等に関わってくるのかは解らないが、素早くスムースな減速効率に役立っているはずだ。
■ドライビングでアンダーを誘発している角田
角田のドライビングは見た目には深く激しいブレーキングをしていても、必要な減速を得られずオーバースピード気味のコーナリングとなり、多くはアンダーステアを誘発し、この修正のために大きくステアリングアクションを起こすことを強いられている。
速く走ることにとらわれて、コーナーへの突っ込みが深くなり過ぎている傾向が見受けられるのだ。結果、ノーズが進行方向へ向いていない分、加速時により大きな横Gがかかり、タイヤマネージメントにも良い影響は与えない。
またハードブレーキと急激なオン・オフを多用するスロットルワークでの加速は、アンダーだけではなく予想しないオーバーステアも発生させ、これが出ればまたステアリングでの修正が必要になり、スピンやトラックリミットオーバー等を誘発してしまう。
ガスリーの速さはここ2年程で築かれたはずだ。なぜなら昨年から今年にかけて、ガスリーのドライビングは明らかにスムースになってきており、さらに速さも増し、安定性も増しているのだから。
角田裕毅のジグソーの全ピースがはまったときには、間違いなく目覚ましいポテンシャルを発揮するはずだ。随所でそれを垣間見せてくれている。しかし1ピースも失わずに収めるのは難しい。問題はポテンシャルそのものではなく、角田自身がそのポテンシャルをしっかりと把握しているかどうかなのだ。自分を理解すれば、おのずと自分のドライビングが見えてくるはずだ。
F1学校1年生の角田裕毅は、殻を割って出たばかりのまだヒヨッコ。誰もまだどんな鳥に育つのかは解っていない。外れれば飛ばない鶏だが、当たれば大きな翼を授かった荒鷲になる可能性を秘めている。
我々ファンとしては、荒鷲への可能性を信じてみたい。
TETSUO TSUGAWA
TETSU ENTERPRISE CO, LTD.