F1

前戦のトルコGPでメルセデスに完敗! レッドブルホンダが遅くなったのはなぜ?

イギリスGPからメルセデスPUは20〜30馬力のパワーアップを果たし、レッドブルホンダを超えるパフォーマンスを取り戻した。
 今シーズン前半、好調だったレッドブルホンダだが、メルセデスに対抗することはできるのか? 元F1メカニックの津川哲夫氏に解説してもらった。

文/津川哲夫、写真/Mercedes-Benz Grand Prix Ltd,Red Bull Content Pool,mclaren


■メルセデスは約20km/hもレッドブルホンダを上回る

ここ2戦で予選決勝ともにメルセデスの後塵を拝したレッドブルホンダ。今シーズン前半、メルセデスはレッドブルホンダの速さに翻弄され、多くのポイントを失い、フランスとオーストリアでのダブルヘッダーの3戦では明らかな劣勢を見せていた。しかし英国GPからメルセデスPUは大きくパフォーマンスを向上させ、レッドブルホンダを僅かに超えるパフォーマンスを取り戻した。シーズン途中でのPU開発は規制されているが、それでも「20〜30馬力の向上が見られる」のは、他のPUサプライヤー達の解析で明らかと囁かれている。

 この結果トップスピードで大幅なアドバンテージとなり、実測で20km/h程もレッドブルホンダを上回る。本来トップスピードの向上はPUパフォーマンスを除けば、ドラッグとダウンフォースの低減が効いてくるのだが、これは反面コーナリング性能を落としかねない。

 メルセデスはPUパフォーマンス向上で、ぎりぎりのダウンフォースで余裕のないコーナリングを、トップスピードの大幅な向上で補う手法を選んだ。

 対するレッドブルは、元々ダウンフォースをコーナリングスピードの必要に応じ適正に発生させるタイプのエアロコンセプトを展開している。これにホンダPUのパワー向上が大きく貢献し、適正なダウンフォースを無駄なく使い、かつトップスピードも向上。シーズン序盤でこのコンビネーションの良さが遺憾なく発揮されたのだ。ただし英国GPまでは。

 英国GPからメルセデスPUは前述の通り20〜30馬力の向上を得た。これによりメルセデスは間違いなく速さを取り戻し、戦闘力を上げてきた。もしもドライならば、メルセデスの速さに追いつける者がいないほどに、それが例えレッドブルホンダであっても。特にシルバーストーンやモンツァ、ソチ、イスタンブールといった、ハイパワーとトップスピードがタイムと成績に大きく影響を及ぼすサーキットでは。

 しかしメルセデスのエアロコンセプトの基本は安定したダウンフォースをフロアで得て、足りないダウンフォースと前後のエアロバランスは相変わらず前後の、特に後部のウィングで行うのが基本となっている。したがってダウンフォースの増加はドラッグの増加を意味し、これは折角のパワーアドバンテージを失ってしまう諸刃の剣でもあるのだ。

■リザルトからだけでは見えない実力差

 雨のソチではハミルトンが優勝、さらにイスタンブールではボッタスが優勝と、リザルトだけを見ればレッドブルホンダの劣勢、遅いレッドブルなどと考えがちだが……。

 ソチで優勝したハミルトンは予選では珍しくポールを逃し4番手だった。しかしライバルのフェルスタッペンがPUチェンジのペナルティーで最後部スタートが決まっていたため、PP獲得にそれほどムキになる必要はなかった。

 しかしレースがスタートすると、序盤こそハミルトンはマクラーレンを抜けずに苦心したものの、マクラーレンのノリスがスリックタイヤのままで走る選択をした事で大きくコースアウト、ピットでインターに変えていたハミルトンはこの天候の急変に助けられて優勝を果たしたのだ。しかし2番手には、なんと最後尾スタートのレッドブルホンダのフェルスタッペンが入っているではないか。

レスダウンフォースの「マクラーレン」ノリスに追いつくもドライでは抜くことができなかった

 レッドブルホンダはフェルスタッペンの最後尾スタートを考えて、予選を走らず、決勝に向けてセッティングを詰めた結果、最後尾スタートで2位に入ってみせたのだ。レッドブルホンダは果たしてハミルトンのメルセデスよりも遅かったといえるのだろうか?

 イスタンブールの予選では、ハミルトンとボッタスのメルセデスコンビが速く、予選ワンツーを占めた。フェルスタッペンはハミルトンから0.3秒、ボッタスからは0.2秒程遅れて3番手。しかしハミルトンはエンジンチェンジのペナルティーを課せられて10グリッド降格の11番手スタート。これでボッタスがPP、フェルスタッペンは2番手でのスタートとなった。

 決勝はボッタスの独走、フェルスタッペンの2位。しかし3番手には7番手からスタートしたペレスが入った。そして、アルファタウリホンダのガスリーも6位に入っている。濡れた路面状況が最後まで続いたトルコGPで、そのコンディションを征したのはボッタスだが、それでレッドブルがメルセデスよりも遅いという判断には繋がらない。なぜならば、ボッタスは周回遅れに捕まるまで、スタートからクリーンエアーの中、水しぶきひとつ遮るものがなく、視界良好のなかを走行、路面状況の把握のしやすさがタイヤへの負担を減らし、いわば最良の条件下でのレースだったのだから。

 問題はハミルトンだ。11番手からの追い上げでも通常のドライコンディションなら問題なくトップエンドを争えたはずだが、コンディションの悪さにより、ぎりぎりのダウンフォースでの走行を余儀なくされ余裕を無くしていた。

ペレスvsハミルトンのバトル。ダウンフォースで勝るレッドブルホンダのペレスが競り勝った

 事実、11番手スタートは常に乱流に翻弄されるダーティーエアーのなかでの戦いを強いられる。彼らが設定したダウンフォースは計算通りには得られないのだ。

■メルセデスの課題はダウンフォース

 その良い例がスタート直後の8ラップ。目の前を走るアルファタウリの角田裕毅に抑えられ、彼をパスするのにハミルトンは9ラップも費やしてしまった。オーバーテイクポイントはストレートエンドだけのイスタンブール。それも本来ならDRSを使って。しかし今回はそのDRSは濡れた路面では最後まで使えず、したがってリアウィングにダウンフォースを頼るメルセデスは、ウィング抵抗も大きくトップスピードも伸ばせない。適正ダウンフォースを効率的に発生させるアルファタウリを抜くのは極めて難しいということになる。

「アルファタウリ」角田選手はハミルトンを8周抑え込んだ

 もちろんメルセデスは30馬力近くのパワーアドバンテージを持っているのだが、予選決勝を通じてそれが速いか遅いかを見極めるのは極めて難しいのだ。

 これまでの悪コンディションでのレースを見ている限り、メルセデスとレッドブルホンダは総合的に五分五分という印象だ。そして、最終戦まで本格的なパワーサーキットは無く、高速でもテクニカルでダウンフォースの仕事が重要なサーキットばかりが続く。メルセデスvsレッドブルホンダの速さの決着、どうつくか、これからのレース、目が離せないシーズン終盤となってきた。

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