F1

ブラジルGPでレッドブルホンダはなぜ完敗? 驚速メルセデスの疑惑に迫る

 レッドブルが得意コースとするブラジル戦だが、蓋を開けてみればなんとメルセデスが驚異的な速さで優勝した。しかし、その陰でDRSからはじまり、DASやICE、さらには動くフロントウイングなど、メルセデスW12から様々な疑惑が出てきた。そんなブラジル戦のあれこれを元F1メカニック津川哲夫氏に解説してもらった。

文/津川哲夫、写真/Mercedes-Benz Grand Prix Ltd

■メルセデスの驚異的な速さは、まるでクラス違い

 本来なら不得意のはずのメキシコ戦でもメルセデスは速かったが、今回のブラジル戦でのその速さは異常と思えるほどで、レッドブルを含めた他チームを全てクラス違いに押しやってしまった。

 メルセデスは、今まではトップスピードが速く中低速は若干苦手という評価をされてきたが、今回のブラジル戦ではそんな噂や評価を根本から覆し、驚くべきメルセデス・マジックが披露された。このままではレッドブルのチャンピオンチャレンジに黄信号さえ灯ってしまう。

序盤はアンダーカットが功を奏してマックスがトップを走っていたが、みるみる差が縮まりサイドバイサイドに……

 ではなぜこれほどまで大きな差がうまれたのか? もちろん本当の答えなど出るはずはないが、推理や予想はいくらでも出来る。一番大きな疑問は、メルセデスPU、それもICEといわれるエンジンそのものの話だ。

 終盤戦で速さを増してきたメルセデスは、毎レース連続的に新しいエンジンに交換している。もちろん4機目以上はグリッドペナルティが課せられるが、現状の速さならトップ10でスタートしても優勝をもぎ取れる。それが予選でPPならば降格グリッドは6番目。これなら最初のスティントでトップに出られそうだ。メルセデスは安心してICEの交換ができるというわけだ。ではなぜこれほど頻繁にエンジン交換が必要なのか?

 これについてメルセデスは、走行距離がかさむとパフォーマンスが大きく落ち込み、信頼性にも影響するので替えざるを得ないと説明する。ではその違いだけで現在の驚異的パフォーマンスが実現出来たというのだろうか?

 前半戦はどうだったか? マイレージの行かないエンジンで現在のようなパフォーマンスを発揮していただろうか?

 シーズン前半でトト・ウルフは、「ホンダのパフォーマンスは違法なエンジン開発を行ったのでは」と語り物議を醸した。その時はホンダのパフォーマンスに遅れをとりそうだったからだ。

 もちろん今シーズンのホンダPUは間違いなくポテンシャルを上げ、メルセデスと肩を並べてきた。実のところその差は殆どなかったように思えた。

■イギリスGPからメルセデスはパフォーマンスを一気に上げてきた

 しかし英国グランプリに搭載されたPUから、メルセデスは一気にパフォーマンスを上げた。規則上では安全の問題やエコ率の向上等の理由での開発は許されているものの、そこでパフォーマンスの向上があってはならないとされている。ただしこれはあくまでもICEと登録パーツの話で、登録パーツ以外は開発が許されている。

 英国以後のメルセデスの速さにいくつもの疑問を持った人は多い。なぜこれほど速さを増したのか? エンジンパフォーマンスをこれほど上げられるはずがないのに?

 これに対する回答として、メルセデスはエアロ開発でのゲインを出してきた。新フロア、新しいウィング、新しいサスペンションセッティング……等々、これらの進歩が速さを可能にしていると。

 しかし、いくら説明されても埋め切れない大きなギャップは確実に存在していて、ハイパワー化への疑問はくすぶり続けてきた。現在では走行データーの解析でエンジンパワーの概要はどのチームのものでも把握できる。

 メルセデスのパフォーマンスデータを解析すると、本当かどうかは別にして30~40馬力程の違いがあると囁かれている。より深まる疑問に対してメルセデスはさらなる答えを出してきた。熱対策の弱点が解決し、チャージ温度の低下と安定で燃焼効率が飛躍的に向上し、ハイパワー化に繋がったと説明を重ねた。

 なるほどと思える回答ではあるが、チャージ温度だけでこれほど驚異的にパフォーマンスが上がるのだろうか? チャージ温度には規制温度以下まで冷やしてはいけないという規則がある。したがってチャージ温度の制御には限界があるのだ。

 また、もしも40馬力の差があるとしたら、規則上のチャージ温度を下限として40馬力分をロスするには何度にまで上昇した場合なのだろうか?

 40馬力分の損失温度がわかればだが、その前のメルセデスはそんな高温でレースを続けていたのだろうか?

ハミルトンは10番手からボッタスはフロントローからスタート。フロントローだったボッタスは驚異的な速さのハミルトンにその後、道をゆずることになる

■FIAはメルセデスに厳しいのか

 今回のブラジルのターン4で、マックスがハミルトンをコース外に追い出す形で自らもオーバーラン。これまでのF1ならばマックスにペナルティーがでるのが普通だが、FIAはスポーティングアクシデントとして問題にしなかった。もちろんマックスに若干の非があったのは確かで、疑問はFIAの裁定に向けられた、もちろん静かにだが。

問題のDRS。マックスにはどうみえていたのだろうか?

 そしてこの裁定に不満をぶちまけたのがトト・ウルフであった。「これはジョークだ」とか、「FIAはライバルに優しくメルセデスにきつい」といった具合にFIA裁定を辛辣に批判した。さらにFIAのメルセデスいじめである、とメルセデスが不満を募らせる出来事が起こった。金曜日の予選でハミルトンのDRS開口幅が規則の85mmを超えていたとの事で、ハミルトンのPPタイムを含めた成績が予選そのものから抹消されてしまったのだ。

 結局ハミルトンはスプリント予選を最後尾からのスタートになってしまった。このときに車検で発見された違反に対して、トトは僅かコンマ数ミリの話でそれも片側だけ、これはアクシデントであり組立ミスでもあるのだからペナルティはおかしいというのだ。

 しかし、これは意味を成さない。車検でのチェックには85mmに許された誤差分を含めての検査をしている以上、いかなる理由でも技術規則は犯される事はないのだ。したがってトトが感じるメルセデスいじめはDRS問題に関して全く通用しない事なのだ。

 F1には昔から不可解でグレーな部分が常に存在してきた。多くはグレーに見えても決して違反ではないのが本当のところで、一番グレーなのは技術的なものではなく、F1の管理者自身だ。彼らが適確で明快かつ強固なレギュレーションを敢然と遂行する清廉潔白の正義を押し出せれば、グレーの雲は快晴に向かってくれると思うのだが……無理な話なのかも知れない。

TETSU ENTERPRISE CO, LTD.
TETSUO TSUGAWA

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