※この記事は、ベストカーwebに寄稿した記事のアーカイブです。
文/津川哲夫 写真/津川哲夫,Red Bull Content Pool
F1の歴史のなかで、ほぼ初めて政治的制裁が下された
本来、F1は政治を持ち込むことを禁止してきた。しかし今回は違っていた。ロシアのウクライナ侵略で東部ヨーロッパ戦線は異常事態に陥っている。色々な意見もあると思うがヨーロッパに住んでいて、ウクライナ人の知り合いも多い筆者は、これはロシアの横暴な侵略であると理解している。それもわざわざ一般市民をも狙っているのだ。こんな他国への侵略は21世紀に起こってはならないのに、これは暴挙といってよいだろう。そのロシアの暴挙に真っ向から反発しているのがヨーロッパ諸国とアメリカだ。F1はそのアメリカのリバティ・メディアの所有なのだから、政治上でもロシアを認めるわけにはいかない。
そしてついにF1は、その歴史のなかでほぼ初めて政治的制裁を下したのだ。ロシアグランプリの開催禁止。ロシアとベラルーシ国籍の選手そしてチームの参加の禁止、さらにロシアのスポンサーの放棄も進められた。
ハースのドライバ、ニキーター・マゼピンがこの制裁にはまりF1から撤退を余儀なくされた。また彼の持ち込んだロシア企業ウラルカリとのスポンサー契約も解除されている。オリンピックやサッカーやテニスといったメジャースポーツの全てが反ロシアとなったので、もちろんF1だけは別といった今までのような特別扱いは出来ない。
メインスポンサーの契約解除で、ハースの資金繰りはどうなるのか?
こうなると小型チームのハースはドライバーも今後の資金繰りなども問題になってきそうだが、意外とそんな心配は無さそうだ。というのもマゼピンの代わりには往年のワールドチャンピオン、エマーソン・フィッティパルディの孫、ピエトロ・フィッティパルディがバレーン・テストを受け持った。もしもフィッティパルディが参戦ならば、ブラジル系スポンサーの参入も考えられる。実際ペトロブラスなどブラジル企業のF1スポンサー活動は過去にも数多いのだ。
さらにハースにはアンドレッティへの譲渡も噂されているし、今シーズンもミック・シューマッハを乗せているのでフェラーリからのバックアップも大きい。まだ正ドライバーの発表はないが、フィッティパルディを含め、スポンサー付きのドライバーは結構いるはずだし、今シーズンのVF22は新たなハースの在り方を示すマシンで、戦闘力は増しているはずだ。F1のシートの数が少ないなか、1席空いたハースのシートはプラチナシートに近いのだ。
バーレーンテストが始まり、各チームともポーポシング現象へ対処
コロナ禍の方向性が若干見えてきたところでのロシアのウクライナ侵略、ロシア・ベラルーシ選手のボイコット……と暗いニュースばかりだが、F1はいよいよ開幕間近で、バレーン・テストが始まった、既に完全な戦闘開始状態のテストだ。
どのチームも前回のバルセロナで見出した問題点の解決策を施し、その実走テストとレースシミュレーション、タイヤデータ集積とエアロ開発等々、やらねばならないテストは山のようにある。
そんななか注目なのはエアロだ。前回テストで各チームを苦しめたポーポシング現象への対処だ。前回のテストではフロアに応急的に切り欠きを入れるなどで空気流のディストリビューションを行い対処していたが、今回はそれをより効果的に組み込んだフロアを持ち込んだ。
レッドブルもメルセデスも形こそ違うが空気流の逃げ道を作り出していた。これである程度の解決にはなっているので、既に相当効率の上がった対処がされたようだ。
またフロアのフレキシビリティの問題も語られていて、メルセデスはフロア後部を数多くのワイヤーマウントで抑えていた。実際ステップのないベンチュリーフロアなので剛性を上げるのは難しい。しかしダウンフォースの発生とともに左右が路面に向かってしなり、スカートの役割をしてベンチュリー効果が上がるので、今後も車検等でこれらのトラブルが多々ありそうな気がする。
レッドブルはリアサスペンションのプッシュロッド化で、新しいギアボックスを搭載。若干の不安を見せていたが、相変わらずフロア上面エアロにもアンダーエアロにもそのコンセプトの軸がブレないようだ。そして驚いたのはメルセデス。今回極端にスリムなサイドポッドを持ち込んだ。最大で1秒のゲインを生み出す可能性もあるというのだが。今シーズンはこれにフェラーリ型、マクラーレン型、そしてウィリアムズ型も加わるかもしれない。開幕前、まだまだ全チームが化ける可能性は残っているのだ。
TETSUO TSUGAWA
TETSU ENTERPRISE CO, LTD.