F1

カリスマデザイナー

 筆者の生業はF1ジャーナリスト、F1グランプリを追って世界中を駆け巡る、インターナショナルなお仕事・・なんちゃって偉そうに!!


 近年F1人気は大分低下してしまい、日本ではもうF1を知らない人がほとんどと言う時代。それでも今年、我らがホンダがレッドブル(エナジードリンクで、飲むと背中に羽根が生えて空を飛ぶ・・ってやつ)と組んでF1グランプリに挑戦、何と既に2回優勝、1回ポールポジションを獲得(この原稿を書いてる時点で)表彰台には何度も立っている。つまりホンダエンジン(今では電気モーター付きでパワーユニットPU等と言っている)が世界を征するための第一歩を踏んだわけ。これは日本人のF1ファン(オイラのような)には涙もんの嬉しさ。


 さてそのレッドブルチーム、このチームの凄さの第一はテクニカルオフィサーと言われる技術の総責任者、エイドリアン・ニューウェイと言う人がいることなんだ。
 ニューウェイさんはエアロダイナミクスのグル、F1デザインのレジェンド、であり彼の関わったマシンがチャンピオンを取ったのは過去に8回を超える、それもウィリアムス、マクラーレン、レッドブル・・と3つのチーム全てでチャンピオンを複数回、ほぼ連続で獲得しているのだ。


 近代F1は目茶苦茶複雑怪奇になっていて、各部が異様なほど深く本当のスペシャリスト達が必要になってる。あまりにも複雑で、ディープでプロフェッショナルな専門家達の集合体だから、もはやF1マシンのデザインなんて一人の人の力では出来ない相談・・と言う考え方が常識化してきている。 今や一人で全てを見渡せる人などいなくなってしまった・・・と思ったら大違いで、この人、エイドリアン・ニューウェイって人は、F1マシン全体を見事に俯瞰して見つめられる・・多分業界唯一人って言う存在かもしれない。
まさにカリスマデザイナーなのだ!!


 そう、近代F1は最新鋭技術とノウハウに埋まり、徹底解析されたデータが充満し、AIが浸透し新世代コンピュータリングによって管理され、メタリックでシャープ、最先端センシング、ナノセカンド解析・・・もはや人間的な感情の入る余地無しの完全機械化世界・・・それらのリーダーはコンピューター化したAI的人間で、ロボティックなクールで冷たい機械人間・・・ではないんだな、ニューウェイさんは。


 実はこのF1デザイン界のアインシュタインとも言えるニューウェイさんは、唯々レース大好き人間。そのレース大好きは半端なく実際にレースに出ているんだ。もちろん彼が現在のF1を使ってレースをしているわけじゃない・・(当然だけど)彼は自分の好きな過去のレーシングマシンを買い込んで、そうクラシックレーシングを走っているのだ。過去にはフォードGT40でスポーツカーレースを(クラシック・ル・マン)走り、そのレースで大破しちゃったけど。さらにはジネッタと言うスポーツカーのレースでもクラッシュ大破。そう、運転はあんまり上手くはなさそうだけど、何度クラッシュしても手を変え品を替え出てくるんだ。
 彼の最新のクラシックマシンはF1で、ロータス49と言う60年代のトップマシン。実に綺麗でピッカピカのこのロータス、端で観ていると“こんな素晴らしいマシン、頼むからクラッシュしないでね!”と言いたくなるほど・・・って彼に向かってそう言っちゃたけど。


 そうこのスーパーカリスマF1デザイングルはやんちゃなレースフリークなのだ。これがニューウェイF1の速い理由の一つ、ってオイラは思ってる。
 現在のF1、もちろんニューウェイマシンもモダンテクノロジーに埋もれたAIデザインのスーパーハイテクマシンではあるけれど、そこにクラシックから綿々と続いてきたレースの神髄や魂が注ぎ込まれているって、勝手に思い込んでいるのだ。



 クラシックな時代にはコンピューターの助けはなく、ろくにデーターもなく、デザイナーは自分の考えとアイデアを自分なりの解析・分析で自分に正当化して“これが良いのだ”と信じてマシンを設計し、アイデアを具現化させてきた。

 現在ではスーパーコンピューターを駆使してシミュレーションに明け暮れ、データ解析を絶対のバイブルとして、モニターに現れる数字とグラフがF1マシン性能の全てであり、その数字を最良の状態にするためにだけマシン開発を進めてゆく、いずれF1デザインはAIが行うようになるのは目に見えている・・んだけど、F1界ではこのやんちゃなニューウェイイズムのマシンがいつも速いんだ。 彼はクラシックマシンを尊重していて、テクノロジーの原点を大切にし、まさにクラシックの歩んできた道を最大にリスペクトしている。だからこそ、どんなに近代的なマシンに見えても彼の係わるマシンはそのエンジニアリングの基礎がブレないのだろうと思うのだ・・・勝手に!

津川 哲夫/tetsuo tsugawa
’76に渡英、F1メカニックとして就業。
現在はF1ジャーナリストとして、評論・解説・執筆活動を行っている。