車・乗り物

ミニは老いぼれか?

 世界には実に多くのクラシックミニが存在している。ミニは生誕60年の長寿、そのファン達は全世代に跨がり、それぞれの世代でミニ文化を作り上げてきた。もちろん60歳以上の〝高齢車〟はクラシックカーの世界には数多く、当たり前に存在している。でもその多くはクラシックと言うステータスの中で保護され安閑として余生を送っているのが殆どだ。しかしミニの多くはクラシックの分野にいながらも余生に甘んじる事なく、多くが車として現役の日々を送っている。だいたい、全てのパーツが街のパーツ屋で簡単に手に入り、あるいはミニのパーツだけの販売で生計が成り立ってしまうミニ専門店も数多くあるのだから、まさに現役感に溢れ、ミニの生存域はクラシックと言う括りで収める事の出来ない不滅のミニジャンルを作りだしたのだ。

  ミニはアレック・イシゴニス渾身の名作…と言うほど肩肘張ったものではなく、コンパクトで経済的な近代ファミリカーの原点として出発している。

 でもそこには横置きエンジンや横置きギヤーボックスによるフロントホイール駆動(FF)。モノコックと前後サブフレームの結合そしてツーボックススタイルの完成形を産み出し、これらは近代ハッチバック小型車の揺るぎないコアとして現在でも継承され続けてきて、クラシックミニの技術も意匠も現在車デザインの原点と言っても言い過ぎではないはずだ。

 小さいながらも近代自動車史を揺るがす画期的なエンジニアリングを誇るミニなのだが、ミニファンにはそのエンジニアリングはそれほど重要な問題ではないのだ。実際いくら近代自動車の原点であると鼻を高くしても60年間進化し続けてきた近代自動車の前では太刀打ちできるわけはなく、60歳超えの性能では近代車のフィジカルな性能にはとても敵いようがない。

  ではミニは老いぼれか? とんでもない、今言ったようにバリバリの現役なのだ。確かに高速道路で現代の大型スーパーマシンに追い抜かれれば、その風圧で飛ばされそうにはなるし、ちょっと長い距離を乗れば背中と腰に結構なダメージを感じはする。では現代の車と比べてはたして見劣りするだろうか? 

 多くの人達がその性能やインテリアや各種付加パーツの少なさ(ほとんど何もない)を、あるいは4人しか乗れない小ささを語り  「だからミニは現代の車に劣る」と言う。確かに間違いではないかもしれない。オートマは使い勝手が悪いし、エアコンなど着けてしまえば、助手席の足下は狭くなるし、エアコンを働かせればエンジンは唸りだし急坂では結構厳しくなってしまう。だいたいオートマもエアコンも本来設定されていなかったんだから致し方ない。さらにパワーステアリングの無いダイレクトなラック&ピニオンは最初からパワーガイルステアリング、大口径ステアリングハンドルに身体を使って挑まなければならないほど重い…確かにこの部分だけを対象にされれば、ミニは現代車に劣ると認めないわけには行かないだろう。

 では何故ミニは英国だけでなく世界各国で現役として元気に走り続けているのだろうか、それも60年も変わりなく?

 まあ限台車が今どんなに元気で便利で高性能を誇っても、新車は6年償却、6年後には査定金額0になってしまう。実際技術進歩も凄まじく、特にハイブリッドや電気自動車では確かに5年後には技術的に全く見劣りしてしまい、パーツも無くなり廃車、そしてリサイクルの為に解体。つまり現代車はこのサイクルの中に組み込まれているので、ロングライフが設定されていないのだ。

 ではミニは? ここでイシゴニス・エンジニアリングの素晴らしさが見えてくる。ミニではいかなる部分の補修・修繕・整備・修復・交換・・・ が手際よく出来るようになっているのだ。エンジン、サスペンション、サブフレーム、車体モノコックパネル… 何があっても例え全損しても、修理が効いてしまう。だからこそ何があってもミニは生き残って行かれるわけで、ミニにはリサイクルはないのだ。つまりロングライフ… 否、永遠の命さえ保証されているわけだ。

 つまりどんな事故があろうと、野原にうち捨てられて見た目は朽ち果てていようが、ミニには常に復活の道が大きく開かれているのだ。

 だから6年で消え去る新車よりも、おそらくオーナーよりも長命が保証されているミニに、人々は魅かれて行く。実際多くのミニが祖父や父などから孫へ子へと受け継がれてきているのだから。

 ある意味ミニは車ではなく家族に近い存在ではないかと思うのだ。もちろんミニ・フリーク、ミニ・エンス、ミニ・ファナティックス、ミニ・ギャングスである筆者の勝手な思い込みではあるのだが…

 ミニは家族やペットのような存在であり、車と言う工業製品を超えたまさに生き物なのかもしれない。ミニと共有する時間は移動の道具ではなく、むしろ癒し、憩い、休息、安らぎ… “ Easy like Sunday morning 〟  

 ミニとの時間は生活の中での“気だるい日曜日の朝〟…なんちゃって!!

初出:ストリートミニ