2021年英国グランプリで、マックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンが凄まじいレースを展開した。
結果的にはその凄まじいレース、スタートから始まり第9コーナーのコプスで両車接触によりフェルスタッペンが大クラッシュをするまで続いていた。スタートからの先陣争いの激しさ、類い稀なる才能を持つ2人のドライバーの技量と意地が火花を散らし、一分の隙もないテールツーノーズ、サイドバイサイドの熱戦であった。
レース後この二人のアクシデントに対して様々な意見、誹謗中傷などが世間に飛び交い、チームボス同士のコメント合戦、メディアやF1オフィシャル等による細かな分析や推論が溢れ、このアクシデントにどうしても正否、白黒の決着を着けようと2人の当事者を差し置いて、犯人探しの形相を呈した。
もちろん接触の瞬間に至る1000分の1秒前の二人のドライバーの脳裏にはそれぞれの判断があった事は確かで、その判断は人間の考える速度の限界0.03秒以下であったことはいうまでもないだろう。
マックス側の意見はクリスチャン・ホナーに代表される“コプスは最も危険なコーナー、これまでも2台での走行はあり得ず、ラインは先に入っているマックスのもの、ルイスの仕掛けは手段を選ばぬ危険きわまりない行為だ!!”である。
残念ながらルイス側はこの意見へのカウンターパンチを持たない。そう物理的にはルイスのフロントとマックスのリヤーがぶつかったと言う状況を覆す事はできないからだ。
唯一の反論は“マックスがドアを閉めてきて行き場がなく接触してしまった。したがって強引に締めてきたマックスに非がある!”
これも決して間違った反論ではないはずだ、事実ルイスのオンボードではマックスが強引に被せてきたように見えるからだ。
現実は“どちらも本当の事”だろう。両者ともこのレースの優勝を狙い、一歩も譲らない覚悟でスタートしていた。特にパフォーマンスでレッドブル・ホンダに押され気味のメルセデスは、何とかスタートで前に出なければストレートでの速さや、コーナリングでの優位を誇るレッドブルを下すのは難しい。このオープニングラップがレースの命運を握っていたのだ。
そう、コプスで前に出られなければルイスのチャンスは希薄化する。
現実にオープニングラップではDRSが使えない。マゴット、ベケット、ハンガーストレート、全てアドバンテージをとられ、このレースを大方失ってしまう・・・。
これはマックス陣営も同じ事。確かにコーナリングマシンのRB16Bとホンダエンジンのパフォーマンスの高さでしっかりした走行が狙えるはずだった。しかしメルセデスも手をこまねいてはいなかったのだ。
英国に至る過去3レースではコーナリングだけでなく、トップスピードでもレッドブルに遅れをとっていたメルセデスW12。その遅れを何とか取り戻す為に英国に向けて大きな開発を行った。この大幅なステップアップは予定のシーズン・スケジュールではあったが、過去3戦の苦戦を払拭するためにドラッグの軽減を目指してフロア・エアロの見直しを徹底、これが功を奏しトップスピードが大幅に向上しレッドブルに肉薄した。
メルセデスのスピードアップはレッドブル陣営には予想外だったかもしれない。タイム的にもスピード的にもメルセデスの向上が予想以上、つまりスタートラップのコプスはRB16Bとマックスにとっても譲る事の出来ない、レースを決定ずける重要なコーナーだったはずだ。
ウッドコートを抜けてコプスに向かうナショナルピットストレートでマックスのトーから抜けたルイスはコプスヘ向かうイン側に入り込み、ほぼサイドバイサイドで8速全開の右コーナー・コプスへ内側沿いに進入、この進入方法で全開ならば確実にマシンはアウト側へと持って行かれ、それを内側へハンドル修正すればスライドを誘発する。しかしアウト側にはマックスが・・
マックスはコプスの進入でインを刺されていた。しかしレースラインは完全にマックスのもの。立ち上がりでアウト一杯、さらにはオーバーランも使える位置なので自分の有利さを最大限に使いイン側でスロットルを踏み切れないルイスの前に出てレースラインを全開のまま固持した。
もちろん全ては想像の域をでないのだが、マックスは“ルイスの走行ラインなら当然ルイスは引くだろう”そしてこのコーナーを征したと思ったはずだ。
ルイスは強引にコプスのインをとりそのまま飛び込みはしたが、そのままではコーナリングスピードを保てないが並走ならマックスがアウトへ膨らむはずだから・・・と。
双方自分がコプスを征し、相手が引く事を念頭に・・されど5分5分のギャンブルに賭けたのだろう。そして双方一切引く事なく結果は痛み分け・・もちろんルイスが勝利を得たのだが、彼は100%勝利したとは理解していないはずだ。実際ルイスはコプスで自車の限界を見切り一瞬スピードを控え、その瞬間マックスが前に出て接触を呼んでいる。
この接触でルイスはほんの一瞬責任を感じたかもしれない。それがコプス抜けでの僅かな減速だ。これをフェラーリのルクレールは見逃さずハミルトンを交わしている。
“接触があるかもしれない”はルイスもマックスも無意識の中にありながら50%の絶対を信じてコプスに飛び込んだのだろう。結果的に大きなアクシデントを呼んでしまったが、コプスでのこの戦いは、正に類い稀なる才能を持つ二人のライバルどうしによる、嘘偽りなき真剣勝負だったと思えるのだ。
2021年英国グランプリはスタートから第9コーナーまでで今シーズンのF1の全てを見せてくれたと思えるほど、久々に興奮をもたらしてくれた。流石コプス・・世界有数のハイスピードコーナーである。
TETSUO TSUGAWA
TETSU ENTERPRISE CO, LTD.