F1

ホンダF1撤退も、2022年レッドブルとの協力体制継続とは?

 今年でホンダはF1のワークス活動を終了する。そして来年は二輪のホンダワークスともいえるHRC(ホンダ・レーシング)がレッドブルと協力してF1を戦うというのだ。これはどういうことなのか? 元F1メカニックの津川哲夫氏に詳しく解説していただいた。
文/津川哲夫、写真/Red Bull Content Pool,mclaren

■2015年からF1復帰もマクラーレン・ホンダは惨敗

 パワーユニットのサプライヤーとしてF1に復帰したホンダだが、2015年からの3年間、マクラーレン・ホンダは結果を残せずに終っている。それは技術の問題よりも、組織体制とF1への思考が近代F1にマッチしなかったからといって良いだろう。この時ホンダは、F1に参戦をするために、HRD(ホンダ・レーシング・ディベロップメント)サクラを新設しそこでPUの開発製造を行い、そして英国のミルトンキーンズには、現地の戦闘部隊であり現場での整備開発を行うHRD(ホンダ・レーシング・ディベロップメント)UKを立ち上げた。

 残念ながらマクラーレンとの共闘では成果を出せず、僅か3年でマクラーレンと袂を分かった。当時はホンダF1撤退の噂も飛び交っていた。

 しかし状況は一変する。それまでルノーワークスチームであったレッドブルは、カスタマーチームへとステイタスを降格させられたことで、次期PUとしてワークス・ホンダに白羽の矢を立てたのだ。交渉は成立し、まずは2018年トロロッソ(現アルファタウリ)にホンダPUの搭載を決めた。

 これはホンダ側にとってもF1でのアンフィニシュトビジネス(未達成の仕事)を達成するためには渡りに舟で、まずはレッドブルBチームのトロロッソでホンダPUの実戦開発を行った。

 Bチーム故に成績へのプレッシャーは無く、ホンダはシーズンを通して伸び伸びと開発に邁進できたのだ。

■レッドブルホンダの誕生、そして組織の刷新

 マクラーレンでの学習期間を終了し、ホンダは開発・実戦双方の組織をより実戦型へと刷新、F1挑戦への態度を大きく変えた。

 HRDサクラでのF1パワーユニット(PU) 開発責任者として浅木泰昭氏が、そしてHRD UKでは田辺豊治氏がTDとして就任。彼はホンダ第二期からのエンジニアでありインディカーを含めてホンダレーシングのスペシャリスト、つまりHRDの組織は2018年から体制を実戦型へと大きく方向を変えたのだ。

 第四期ホンダF1プロジェクトはここから本格化した。ホンダPUはマクラーレン時代の小型化コンセプトだけを残して全てを見直し、トロロッソでの一年で耐久性を確立。2019年にはレッドブル本体との2チーム体勢が敷かれた。

 開発はHRDサクラが担当し、絶対的信頼性を確立。そして最終年2021年に向けては、何と全く新しいPUを投入した。これはHRDサクラの真骨頂ともいえるもので、浅木エンジニアチームの集大成である超コンパクトエンジンとホンダジェットからのノウハウを投入したターボユニット、そしてMGU-Hが高次元で融合していた。この新しいPUは、絶対王者のメルセデスを驚愕させる高いパフォーマンスを発揮し、さらに信頼性をも両立させていた。

 その結果、ホンダPUは堂々と世界チャンピオンを争い、王者メルセデスに迫る勢いを見せつけている。

2021年F1第16戦トルコGPでは「ありがとう」の日本語が入った、幻の日本グランプリ仕様RB16Bが走った

■ホンダF1撤退でレッドブルは……

 しかし、そのワークス活動には終了宣言が出され、ホンダPUがこれ程高性能にもかかわらず、ホンダF1撤退の事実は変えようもない。この撤退に最もダメージを受けるのはもちろんレッドブル軍団だ。このままホンダ撤退ならば2チームは搭載PUを失ってしまう。

 実際ホンダ撤退発表を受けて、メルセデスは早速レッドブルへの供給はしないと宣言。ルノーはカスタマー待遇ならばOK、フェラーリはコメントなし……。つまり戦えるPUどころか、搭載PUに選択肢がなくなってしまう。

 そこでレッドブルは、ここで新たな戦略を立て、レッドブル・パワートレインによる自製PUの製造を決めた。しかし、これでは来年には間に合わない。

 そのためレッドブルはホンダと契約を交わし、ホンダPUを知的財産として受け継ぎ、少なくとも26年からの新規則PUまでの間はホンダPUを継続使用することが決まった。そして26年以降は独自のレッドブルPUを製造・搭載するという。

 この独自PUの設計開発のためにレッドブル・パワートレインを設立。さらにミルトンキーンズにファクトリーを新設し、ここで25年までは受け継いだホンダPUのメンテナンスと管理、そして26年以降は独自の新レッドブルPUの設計開発を行うというのだ。

 ところが先日、ホンダは新たな体勢を発表した。来期からホンダワークスはアナウンス通りF1から撤退をするが、ミルトンキーンズのHRD UKの地元スタッフは全員そのままレッドブル・パワートレインに移籍、今後もレッドブルのPUの整備開発を継続し、ホンダもサポートを行うというのである。

ホンダワークスは撤退するが、HRD UKの地元スタッフは全員そのままレッドブル・パワートレインへ移籍する

■MOTO GPを中心に活動してきたHRCがレッドブルF1をサポートする

 サポートするのはホンダワークスではなく、これまでMOTO GP(二輪ワールドチャンピオンシップ)を中心に活動してきたホンダの子会社HRC(ホンダ・レーシングコーポレーション)が行うという。HRCからのサポートには、日本人技術者(もちろんホンダのエンジニア達)の派遣も含まれるのだとか。

レッドブル新PUを扱うのはこれまでMOTO GPを中心に活動してきたホンダの子会社HRC(ホンダレーシング)が行う。これまでどおり両ドライバーには力強いPUが提供される

 またレッドブル・パワートレインのファクトリーはまだ出来ていないので、いままで通りミルトンキーンズのHRD UKで作業を続けるそうだ。

 つまり、名前がHRD UKからレッドブル・パワートレインに変わり、HRDサクラはHRC扱いに変わっただけで、事実上来期以降もほぼ現状通りの体勢が維持される事になったわけだ。

 企業としてのホンダはF1から撤退をし、F1への予算は以後計上されず、会社内のF1部門は消滅するのだろうが、F1を担った技術や技術者はHRCという別会社に移管され、新たにカスタマーサービスという形でホンダF1のPUは生き続けてゆく。

 ホンダF1第二期の終了後、V10は無限エンジンとしてF1に残り、その技術を第三期へと繋げたように、第四期はここで終了しても、HRCを通じてレッドブル・パワートレインと共に技術を残し、繋げてゆく。

 知的財産の提供という形は25年に終了はするが、スタッフや技術的ノウハウはレッドブル・パワートレインに継承されてゆく。だからこそ、後に新たなホンダF1第五期が訪れるのではとの期待が生まれてくるのだ。

TETSUO TSUGAWA
TETSU ENTERPRISE CO, LTD.
(初出ベストカーWEB)