スポーツカーを考えるとほぼ全てが欧州車。もちろん日本車も素晴らしいスポーツカーはあったが、今ではハイテクスーパーカーは存在するが、いわゆるライトウェイトスポーツはほとんど無いと言っても良い。もちろんマツダのロードスターの様に世界的に認知されている素晴らしいライトウェイトスポーツがあるが、他にこの手はあまりない。
この意見には大きな反論があるはずだが、あくまでもクラシックスポーツカーって話だから勘弁して欲しい。
だいたいスポーツカーが生まれたのが欧州、特に英国はスポーツカーの宝庫・・だった! 近代ではたいしたことないけど・・目茶高いアストンとかは別にして、誰でもが手を出せる価格帯で、と言う話だ。
一時代前、英国スポーツカーは一世を風靡し、イタリアンのスーパーフェラーリとは違ったロードスポーツのジャンルを造り上げていた。ハイエンドではアストンやACそしてジャガー、より大衆にはMGとか、オースチンやトライアンフなどがスポーツカーを普及させ一般道路にこれらが繰りだした。英国は雨が多く、冬は寒く霧も多い・・それなのにドロップヘッドのオープンスポーツは英国のメジャーだった。本当なら国の道路事情や気候などが影響する筈なのだが、良く言えば野性的(悪く言えば獣的な)狩猟民族、ケルトやアングロ・サクソンの末裔、戦争大好き英国人は濡れるとか、寒いとか・・関係ないのだ、本当に。我が家近辺はコッツウォルドと言われる田舎だが、この辺りはアンジュレーションに富んでいて、リズミカルに緩いコーナーが丘陵の稜線や森の中を抜けている、ライトウェイトスポーツで流すには最高の条件が揃っていて季節に関わらず、路面が凍る程寒くても天気さえ良ければこれらのドロップヘッド型は皆オープンにして走っている(鼻先を真っ赤にしながらね)。
もちろん現在の車でこれほど素敵で手軽なスポーツカーはもはや今の英国には無いし、現在の新車ではあり得ない世の中。存在していても電子コントロール、オートマ、自動ブレーキ、オートアイドルストップ、ハイブリッド・モータドライブ・・物凄い加速はするけどその加速感は実にスムースで、最適のグリップを電子制御しコーナリングも高速でスムースに行えるそんなハイパー・スーパースピードマシン、だからこれらがスポーツカーか? と言われると大きな疑問符が付く。なぜならスピードは出るけどスポーツではないから。速い車に乗ってはいるがスポーツはしてない。
ところがレトロやクラシックスポーツカー、恰好はよくても科学的にはゼンゼンでき上がってないマシンが多く、そんなマシンを昔はエンジンも足回りも一生懸命チューンして速く走らせようと努力してきた。そんな連中が集まってスピードを競うから自動車レースが成り立ってきた。しかしそんなハイチューンレーシングスポーツカーでも現在の普通にハイエンドのスポーツモデルと比較すれば簡単に負けてしまう。
でもこいつらが結構なレースシーンを創り出してくれる。個性的で雑多なスポーツカーやツーリングカーのスポーツモデルが、現代レーシングでは笑われそうな“オットット”状態でそれなりに激しいレースを熱く展開してくれる。
これが現在のクラシックカーレースの原点で、年々人気は増すばかり。
毎年モータースポーツの祭典として開催されるオートスポーツインターナショナルショー。クラシックレーシングカーはそんなショーの中で、現在のF1やWEC、ツーリングカーやGTカーと同じようにシッカリと居場所を決めて、人気を得ていて、実は年々その面積が広がりつつあるのだ。
このショーで恒例のオークションではついにクラシックレーシングカーが通常のクラシックカーを凌駕し始めた。
モータースポーツのメッカと言われる程レースの盛んな英国でも、メジャーカテゴリーはメーカーが牛耳り膨大なお金をかけ、趣味のモータースポーツの環境は益々厳しくなっている。もちろんモータースポーツ、例えクラブマン草レースでも、ロールケージや消火器、それに燃料タンク等はFIA(国際自動車連盟)の認定品の装備義務があり、これだけでも多くの資金が必要で、ましてやトップエンドカテゴリーは天文学的数字になってしまう。
しかしそれがレトロ系のクラシックならば、自分でレストアし、エンジンチューニングは町のショップで、これだとかなりお安くやれる。もちろん本当のクラシックでは車そのものが高価だがレトロクラスなら数も多いので苦労せずに車も見つかるしまだ低価格で、一般のファミリーカー購入とそれほど違わず、少しゆとりがあれば誰でも出来るジャンルと言うわけだ。
しかし近年このレトロやクラシックレースも人気が高まってきて、いよいよメーカーの触手が動き始めてしまった。何とか趣味のプライベーター達のレースを荒らさないで欲しいと思うのだが・・・。
津川 哲夫/tetsuo tsugawa
’76に渡英、F1メカニックとして就業。
現在はF1ジャーナリストとして、評論・解説・執筆活動を行っている。